雪の降る校庭で


朝起きたら雪の匂いがした。
窓を開けたら、、、
案の定、辺り一面雪化粧で、
まだ花びらみたくひらひらと降っていた。

階段を降りる時、ストーブの匂いがした。
テレビの天気予報が、今日一日雪が降り続くというので、
いつもは自転車で通う学校も、
遠回りしてバスで登校する事にした。

時刻表に書いてある時間より、
ずいぶん遅れてバスがやって来た。
雪のせいか、バスは満員だった。
久々のバスは、すごく新鮮だった。
これから仕事に出かける大人達、
見かけない制服の学生もいる。
「今日は混んでますね」
「いつもの倍は乗ってますね」と言う声も聞こえる。
バスが動き始めたので、吊り革につかまった。
曇った窓ガラスを、誰かが拭いた場所から外がちらっと見える。
この辺りは田んぼばかりで、辺り一面真っ白だ。

バスが走り出して間も無く、
誰かが後ろから僕の制服を引っ張っている、、、。
満員で身動きが取れないけど、何とか振り向くと、
1学年下のMさんが座席に座って、こっちを見て笑ってた。

Mさんは、同じ演劇部で一緒だったけど、
秋ごろ突然退部して、それ以来、顔を見る事は無かった。
身内に不幸があったとか、
もう学校に来れないかもとかいう噂を聞いたけど、
本当の所は分からなかった。
クラブ活動の時は、あまり話す機会は無かったけど、
何か魅力的な女の子だった。
目が合う事は多かったし、なんだか気が合いそうだった。

「すごく久しぶりだね。」
「うん、しばらく学校休んでたから。」
「いつもこのバスに乗って来てたの?」
「ううん、、、引っ越したから自転車は無理で、最近はこのバス。」
「そっか、、、また演劇部に戻ればいいのに。」
「うん、、、考えてみる。」

色んな話をしている間に、バスは学校の前に着いた。
「じゃまたね」「うん、またね」
二人はそれぞれの教室に向かった。

さすがに雪の日は遅刻者が多く、
授業が始まってから教室に入ってくる生徒も何人かいた。
窓ガラスはやっぱり曇っていて、はっきり見えないけど、
雪はまだ降っているようだ。

午前の授業が終わり、お昼ご飯の時間になった。
最近母が体調を崩してるので、
今日は売店でパンを買う事にする。
売店は北校舎の1階にあって、遠回りすれば雪を避けて行けるけど、
校庭を通って行けばかなりの近道。
雪は積もってるけど、そんなには降ってない。
少し小走りで行けば、びしょ濡れになる事は無い。
誰も歩いてないけど、校庭を突っ切って行こう。
渡り廊下でそう決心して、いざ駆け出そうと思った瞬間、
朝、バスで出会ったMさんとまた、ばったり遭遇、、、。

「あれっ、また会っちゃったね」
「あ、今から売店にパンを買いに行く所。」
「偶然!!私もパンを買いに行く所!!」
「ほんと!?近道だから、校庭を突っ切って行こうかと思って。」
「え〜っ、転んじゃうんじゃないの?」
「大丈夫!!ゆっくり行けば。一緒に行く?」
「いくいく!!」

「せーの」のかけ声で歩き出す二人、
校庭は雪で真っ白、花壇の花も雪で埋もれている。
見上げると真っ白い花吹雪が舞っていて、
全ての世界の音が無くなっている感じがした。
何もない真っ白い雪の世界、
二人の足跡だけが後ろに続いて行く。

Mさんがつまずいたので、とっさに手をだす。
繋いだ手、冷たいけど柔らかい手。
微笑む顔、恥ずかしそうなしぐさ、白い息、
ときめく心、何かの予感で胸がきゅっと締めつけられる。
「だいじょうぶ?」
「うん、だいじょうぶ。いこっ!」
また歩き出す二人。

これから二人が待ち受けている運命は、
とてつもなく幸せで、とてつもなく悲しいものだけど、
この真っ白な雪のように、
とてつもなく美しい時間。
もちろん、今の二人には知るよしも無い。

何もない真っ白い雪の世界、
二人の足跡だけが後ろに続いて行く。



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