ただいまっ〜おかえりっ!!


○月○日

昨日は亡くなった母の法事で、久々に滋賀県近江八幡市の実家に帰った。
遠くに見える比叡山も、八幡山も、全然変わってなかったけど、
街はどんどん発展していってて、心なしか、
道行く人々がおしゃれになってる気がした、、、。

実家は、、、あまり変わってなかった。

客間に飾られた小学生の時の賞状も相変わらずそのままで、
白い壁掛け時計もそのままで、
「ひとつ!世の中で一番立派な事は、一生涯をつらぬく仕事を持つ事である」
等の教訓がいっぱい書かれた、福沢諭吉訓もそのまま壁に貼られてて、
しかも汚れないように、紙全体にビニールが張られていたのもそのまま、、、。

まあ、変わった事といえば、
母が亡くなってから、
実家に帰って「ただいま〜」って言って玄関を開けた時、
「おかえり〜」って言ってくれるのが父だけになった事くらいか。
その分、父の「おかえり〜」は、心にしみるけどね。

母の「おかえり〜」は、まあ誰にでも日常茶飯事な事だけど、
今思えば、無意識のうちに心の支えになってたんだと思う。

実家の回りには親戚が多い。
なので近所を歩いてると、必ず誰かしら親戚に出会う。
「ただいま〜」
「おかえり〜!!帰ってきたんか!!」
「うん」
なんか気恥ずかしいけど、ホッとする瞬間。

お坊さんが実家にやってきて読経が始まる。
時おり縁側から吹き込んでくる風が懐かしい。
自分が子供の頃は、法事などで親戚が集まる時は、
子供がほんとにいっぱいいて、家中大騒ぎだった記憶があるけど、
最近はめっきり少なくなったな。
これも時代の流れなんだろうか?

読経が終わり、お坊さんが帰ってしばらくしたら、
親戚一同バスで大移動。
琵琶湖の近くにある宴会場へと向かう。

広いお座敷に親戚のみんなが座る。
子供は少なくなったとは言え、親戚はまだまだ多い。

宴会の仕切りは、兄がやってくれてた。
兄は頭脳明晰でしかもスポーツマン。
皆からの信望が厚い。
自分では原辰徳に似ていると思うが、
それを言うと、ほとんどの人が苦笑する、、、。

料理は、まずはじめに「ふな鮨」が出てきた。
「ふな鮨」って書いただけでも唾液が出てくる。
滋賀県の名産品なのだが、お土産でもらった人のほとんどが、
「腐ってる」と勘違いして捨ててしまうという代物。
子供の頃は実家でも漬けていた。
御飯、塩、ふな、御飯、塩、ふな、と漬け込んで発酵させる。
とても「めちゃ美味しい!!」と言えたものじゃなかったけど、
ずーっと噛んでると癖になる、、、。

お酒がはいってきて、無口な親戚達もだんだん騒ぎ始めてくる。

そして案の定、カラオケが始まる、、、。

前回の法事の時、自分の精神状態が悪く、
親戚のみんなから、カラオケを歌ってくれと、
お母さんのためにも歌って、、、と言われたけど、
なんでか、かたくなに断った、、、。
その時の事がすごく心残りで、、、今回は、
恥ずかしさも忘れて、心開いて行こうって決心してた。

でも、さすがに歌は恥ずかしいので、
ステージにあった和太鼓を、カラオケに合わせてたたく!!
特に間奏ではたたきまくる!!
何曲もたたく!!みんな喜んでくれているみたいだ、、、よかった、、、。

カラオケも一段落したら、今度は父が和太鼓をたたき始めた。
町内の祭りの時にたたく節だ。懐かしい、、、。

故郷のお祭りは、小太鼓、大太鼓、お神輿と続いて町を練り歩き、
一日かけて神社へと向かう行事だ。
太鼓をうまくたたける事は、一つのステイタスにもなっている。
「あいつのたたく太鼓は腹に響く」と言う自慢話も行き交うほどに。
お祭りのクライマックス、神社の鳥居に入る瞬間に太鼓をたたくのは、
代々伝えられる位、最も重要な役割だ。
普通はその年の、町内会の青年団の団長がその役をやるのだが、
たまに、太鼓のばちの取り合いになって喧嘩が起こるくらい
みんなが興奮状態になる。
兄が団長を務めた年のお祭りの時、クライマックスの鳥居に入る瞬間、
喧嘩も起こるほど大騒ぎの中、団長の兄が、
ばちを無言で私に握らせてくれた、、、。
へなちょこで、力も弱い私だけど、必死でたたいた。
全部の指から血が出るくらい必死で、、、。

父はカラオケのステージでたたき続ける。
リズムは、もちろん覚えてる。
どん、どん、どんどどっどどん
腹にズシンと来る。

町を練り歩く時の節に変わる、
どん、どん、どん、どどどんどん
無心に父がたたく。
なぜか涙がにじむ、、、
どん、どん、どん、どどどんどん
どん、どん、どん、どどどんどん

トイレから帰ってきたら、親戚のおばあちゃんが話しかけてきた。
「おかえり。帰ってきてくれて、ありがとうな。
ほんまにありがとう、ありがとうな。」
おばあちゃんは涙を流しながら、何度もありがとうを繰り返す。
また涙で風景がにじむ。





いくつもの「おかえり〜」は安堵で、そして分け隔てない無償の愛で、
そして、自分を強くしてくれる言葉。
「ただいま〜」は強くなっていく事への感謝の言葉。



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